- 昔に生きる
-
認知症の人で、記憶が新しいことから古いことへの遡って失われることがあります。特にアルツハイマー病でこの傾向が見られます。80才の高齢者では、過去30年の記憶が順次失われていくと、この人にはとっては過去30年の世界は存在しないに等しいといえるでしょう。この結果あたかも30年前の、50才頃の昔に戻り、その世界に生きているような言動を取ることがあります。男性では、退職して20年余りにもかかわらず朝なると「会社に行く。弁当を用意しろ」と言ったりします。あるいは女性では、子供達は結婚し独立しているにもかかわらず、夕方になると「学校から帰宅するからか、子供の夕食の用意をする」と言い張ることがあります。あるいは鏡に写った自分の顔を他人と思い話しかけたり、長年一緒に生活してきた配偶者に「どちらさんですか」と言ったりするのも、過去に遡って失われた記憶のためとすれが理解できるでしょう。
このように昔に生きているような認知症の人に対して、基本的には、まずは「昔に生きている」かのような状態を受け入れるのがよいでしょう。現実との混乱が生じるようであれば、宴曲に否定し現実の世界を説明するのも試みてもよいでしょう。